小篠綾子さんII

小篠さんの自伝によれば、長崎出身Tさんとの同棲生活は20年だったそう。隣町に二人の家を借り、そこから毎日岸和田の自分の店に通った。後に彼は本町の一等地に紳士服店を開いた。小篠さんは、自分の家族、彼との二人の生活、彼の妻子の生活費と3軒分を支払っていたわけ。婦人服の商売がそんなに儲かるとは驚き。ドラマでは月2万8千円の儲け、と言っていました。今ならいくらなんでしょう。祖母、父の葬式、妹2人の嫁入り支度も小篠さんが出したわけで、実に大黒柱。
Tさんと添い遂げなかったのは、本ではTさんが約束手形をごまかしたことと、店の改装のショーウインドウの大きさで揉めたからだとか。二人暮らしから、実家兼店に同居するようになってから、彼のアバタが目立つようになったそうだ。Tさんは自分の店の収入があったはずなのに。競馬資金が欲しかったらしいけれど、お金が手に入る前にばれてしまって。それから共同経営者ではないのに、店にも口出しできると思う態度が、小篠さんにしたら、3歳年下の愛人に裏切られた、ということらしい。二人の関係は、お金の量に比例して不均衡だったみたい。怒った小篠さんに恐れをなし?彼は毎晩バーで飲み明かして、遂に家に戻らなかったそうな。数年後スクーターの事故と同時にわかった癌で入院し、あっけなく一週間ほどで亡くなったとか。彼はおそらく56歳くらい。喧嘩別れのまま亡くなるなんて、Tさんは最後まで小篠さんが好きだったんですね。お金の無心は愛情を図っていたのかも。それに対し、小篠さんは仕事にはTさんの入り込む口を与えないし、競馬にお金を使うなんて冗談じゃない、という感覚でしょうか。
小篠さんは一度も見舞いに行かず、なついていた3人の娘が見舞いに行った。Tの友人には、余命が短いから是非見舞いに行くように説得されたが行かず、葬式にも出なかった。これを読んで、内緒で店のお金を使おうとしたことに激怒して生涯許せなかったらしいと想像。普通の女性にできない規模の働きをした彼女は、エネルギッシュだけど、愛より仕事の方がウエイト高かったみたい。和解しないまま死別するというのは、あまり気分が良くないでしょうね。
小篠さんは、20年一緒にいたTさんの方が、生涯1度しか旅行もデートもしていない夫よりも夫らしかったと書いているけれど、あの世ではどうしているんでしょう。私自身は、葬式より、生前に会う方がいいと思う。明治の祖母が、形見分けをすると言って、生前孫まで集めて会ったのは賢いやり方だと思う。お葬式は、魂になって、天井あたりから見ているんだそうですが、話せないから、誰が自分の葬式に来たかより、生前に会うほうがいいな。
創業者が、これは自分の物だ!としがみついているのは、他のケースでも見聞したことがある。自分の時間、能力、愛をかけて育てた会社や店、お金は、みーんな自分の物!という感じの人。まあそうなんでしょうけど、固執しすぎているのを傍から見ると、美しくは見えない。自分も気をつけなくては。